キューブパンの形 必然と偶然の運試し | まつやまパン

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キューブパンの形 必然と偶然の運試し

焼きたてのキューブパンの角にクローズアップし、自然光に照らされた焼き色の濃淡が柔らかく際立つ瞬間を、一生懸命なシェフ姿で少しコミカルに描いた画像

キューブパンを焼くたびに思う。
この角の中には、少しだけ空気が入っている。
完璧に詰めようとしても、どうしても残る“何か”。
それは失敗ではなく、たぶん余白だ。


パンを焼く人間にとって、角というのは「終点」だ。
膨らみが止まり、形が決まる場所
だけど、生地にしてみればそこは“壁”だ。
ぶつかって、押し返されて、それでも中に空気をためる。
立方体という形は、パンの意思を少しだけ閉じ込めている気がする。


世の中には「四角い」というだけで整って見えるものが多い。
カットされたチーズも、スマートフォンも、
みんな角を持って、きちんと積み重なる。
でも、パンは違う。
どんなに四角くしても、角の内側には柔らかさが残る。
完璧な形に見えても、実際は呼吸している。


型に生地を詰めすぎると、角が割れる。
少なすぎると、角が立たない。
ちょうどいいところを狙うのは、数学ではなく勘だ。
そしてその“勘”は、だいたい外れる。
間が立方体を作ろうとするたびに、
パンはやんわりとその完璧を拒否する


それでも焼き上がったキューブパンを並べると、
やっぱりきれいだと思う。
均等な形が、まるで整理された思考みたいに見える。
でも触ると柔らかくて、
押せばすぐに形が変わる。

つまりキューブパンは、きちんとして見えるやわらかいものだ。
人間もたぶん、それくらいでいい。
角を保ちながら、空気を含んでいる感じ。
壊れないように焼けた朝は、ちょっといい日だと思う

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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