トレンドパンの鍵を握る「アレンジ力」|なぜ流行は生まれ、広がるのか | まつやまパン

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トレンドパンの鍵を握る「アレンジ力」|なぜ流行は生まれ、広がるのか

トレンドパンは、突然生まれるわけではない

年ごとに、
「こんなパン、見たことがない」
という商品が現れる。

クイニーアマン。
クロワッサンロール。
マリトッツォ。

一見すると、
流行は偶然の産物のように見える。
だが、いくつものトレンドを振り返ってみると、
そこには共通する条件があることに気づく。

トレンドパンは、
思いつきではなく、構造から生まれている。

マリトッツォとキューブパンで作ったマリトッツォを並んでいる。窓からさわやかな明かりがさしている。

① 知的好奇心をくすぐるもの

まず重要なのは、
「食べたことがない」という感覚だ。

見た目が少し変わっている。
名前が聞き慣れない。
どこかおしゃれ。

それだけで、
人は一度手に取りたくなる。

「きっとおいしいだろう」
「これを食べたら、日常が少し変わるかもしれない」

そんな期待が、
トレンドの最初の火種になる。

② 発信したくなる体験

いまのトレンドを語るうえで、
SNSは避けて通れない。

高級食パンが流行し始めた頃、
すでに人々は
「食べた体験」を写真付きで共有していた。

誰かに教えたくなる。
自分の感覚を表明したくなる。

販売する側も、
自然と「映える商品」を意識するようになる。

パン専門のインスタグラマーが現れ、
一度投稿されれば、
共感によって一気に拡散する。

クロワッサンロールのように、
海外発のトレンドが
ほぼ同時に日本へ入ってくるのも、
この時代ならではだ。

インスタグラマーが美味しそうな「キューブパンのマリトッツォ」の写真を撮っている場面を画面を見ている無表情で眺める聴衆たち 風刺画的なイメージの画像を生成してください

ただし、
拡散が早いぶん、
賞味期限も短い。

このスピード感は、
常に意識しておく必要がある。

③ アレンジしやすい構造

近年の大ヒット商品には、
もう一つ共通点がある。

それは、
アレンジしやすいことだ。

マリトッツォ、ドーナツ、クロワッサン。
どれも、
ベースは驚くほどシンプル。

そこに
クリームを足す。
フルーツを挟む。
別の素材を組み合わせる。

少し変えるだけで、
無数のバリエーションが生まれる。

AMAM DACOTAN のマリトッツォも、
最初はローマの伝統的なスタイルだった。

そこから
フルーツ、
バスクチーズケーキ、
焼き芋と展開し、
見た目のインパクトとSNS映えを強化していった。

しかも、
ブリオッシュと生クリームという、
多くの店が扱える素材で作れる。

この「参入しやすさ」も、
ブーム拡大を後押しした。

いろんなアレンジされたやクリーム色をしたマリトッツォとキューブパンで作ったマリトッツォがたくさん並んだパン屋の売り場を想像して書いてください 近未来的なパン屋です。

トレンドは「最終形」に向かっていく

フード業界には、
こんな言葉がある。

コンビニに並んだら、それはトレンドの最終形

コンビニに並ぶということは、
それだけ多くの人に
理解され、共有されたということだ。

マリトッツォは、
パン屋だけでなく、
スイーツ、和菓子へも広がった。

「どら焼きのマリトッツォ風」
という商品が登場したのも、その流れだ。

この現象を、
ライターでサブカルチャー研究家の
トミヤマユキコ は
「謎トッツォ」と名づけた。

丸いおはぎ生地に、クリームをたっぷりサンドしてマリトッツォ風に仕立てたようなビジュアル

流行しすぎて、
何が何だかわからなくなる。
だが、その混乱こそが、
浸透の証でもある。

この分析は、
エル・グルメ の連載でも紹介されている。

トレンドの裏にあるもの

こうして見ると、
トレンド商品の裏側には、
必ず作り手の姿勢がある。

探究心。
遊び心。
そして、リサーチ力。

何より重要なのは、
「どんな商品だったら、うれしいか」
という視点だ。

平子良太 が語るように、
商品を「売る」のではなく、
「喜んでもらう食べ物を作る」。

その姿勢が、
人を惹きつける力になる。

流行は、共有されて完成する

イタリアでは、
郷土菓子は本来、
地域を越えて広がらない。

だが、
日本でマリトッツォが流行したことをきっかけに、
本国でも再評価され、
他地域へ広がった。

トレンドは、
いまや国境を越えて循環する。

そして、
共有され、アレンジされ、
最後に日常へ溶け込んでいく。

トレンドパンの鍵は、
派手さではない。

広がる余地を、最初から内包しているかどうか。

その一点に尽きる。

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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