パンの低温発酵──“時間”が生地を育てる不思議 | まつやまパン

コラム & INFO

コラム

パンの低温発酵──“時間”が生地を育てる不思議

タイムトンネルのような冷凍庫の中で眠るパン生地。低温発酵による静かな熟成の瞬間

パンを冷蔵庫で寝かせると、なぜか味が深くなる。
「低温発酵」は、いま多くの職人が取り入れる発酵法だ。
けれどそれは単なる温度管理のテクニックではなく、
時間そのものを“熱”として使う方法でもある。


🧊 温度が低いと、酵母は“静かに働く”

発酵を担う酵母は温度に敏感だ。
25〜30℃で最も活発に活動するが、
5〜10℃の冷蔵環境ではゆっくりと呼吸する。
その遅さが、実はパンの風味を育てる鍵になる。

酵母が糖を分解するスピードが落ちることで、
生地にじっくりとガスが回り、香りの成分が複雑に変化する。
“遅い発酵”がパンの中に“深い時間”を作るのだ。


🌙 低温で寝かせるということ

低温発酵は「寝かせる発酵」とも言われる。
冷蔵庫の中で静かに眠る生地は、
職人が働いていない時間にも少しずつ呼吸を続けている。
これはまるで、人間が眠っている間に記憶を整理するのと同じだ

朝、冷蔵庫から生地を出した瞬間。
わずかに膨らみ、表面がなめらかになっている。
それは“夜の仕事”を終えた酵母の顔。


🧠 科学の裏にある感性

低温発酵のメリットは科学的に説明できる。
風味が深くなる、老化が遅くなる、水分保持が安定する──。
だが、職人にとってそれ以上に大切なのは「整う感覚」だ。
冷たい時間の中に、パンが自分の形を見つけていく。

低温発酵とは、“待つ勇気”を持つための技術なのかもしれない。

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

コメントは受け付けていません。

関連記事

〒814-0131 
福岡県福岡市城南区松山2-16-3-103
電話番号 / 092-600-2980

 

営業時間 / 7時30分~16時
定休日 / 月曜、火曜
【月曜日が祝祭日の場合はopen】

 

プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記 / 利用規約

Copyright © 2025 原 新 All Rights Reserved.

CLOSE