パンは丸く焼けるのに、私はキューブを作りたがるのか? | まつやまパン

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パンは丸く焼けるのに、私はキューブを作りたがるのか?

焼く前の丸いパン生地と焼き上がったキューブパン。自然の柔らかさと人間の秩序を対比する構図で描いてください。

パンというのは、放っておくと丸くなる。
膨らみたい方向に膨らみ、
やわらかい場所を選んで空気をためる。
それが自然な姿だ。

なのに私は、その自由を型に押し込めて“角”を作ろうとする。
形を与えるというのは、いつも少し暴力的な行為


パン屋として生地を型に入れるとき、
いつも小さなためらいがある。
「この子は、ほんとはもっと丸くなりたいんじゃないか」と。
でもそれを押さえつける。
角を出すために、均等に詰め、均等に焼く。
自然に逆らいながら、
人間だけが理解できる“秩序”という名の幻想を作っていく。


四角という形は、効率の象徴だ。
積み重ねやすく、並べやすく、
きれいに切り分けられる。
都市の建物も、机も、スマートフォンも、
人間の世界は四角でできている。

四角は、自然界にはほとんど存在しない。
だからこそ、私たちは四角を作る。
それはつまり、「自然を支配したい」という人間の無意識なのかもしれない。


ただ、パンは生きている。
型で焼き上げても、角が少しだけ丸くなる。
それはまるで、自然が「はいはい、わかった わかった」と
私の努力に軽くツッコミを入れてくるようだ
その丸みを見ると、少し安心する。
四角の中にも余韻があるということだろう。


型を使う理由を問われたら、
「形を揃えるため」と答える。
けれど本音を言えば、
人間はきっと“形にすることで安心したい”だけなのだと思う。

丸いままでは不安になる。
見えないものに名前をつけて、
流れるものを固めて、
パンのように日々を焼き固めている。


だから私は、今日も角を作る。
自然に逆らって、秩序を焼く。
でもオーブンを開けるたび、
角が少し丸くなっているのを見る。

それを見ると、
「まあ、これでいいか」と思える。
パンは今日も、人間の完璧主義をゆるしてくれる

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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