焼き加減というあいまいな科学 | まつやまパン

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焼き加減というあいまいな科学

焼きすぎたパンと焼き足りないパンが並んでいる漫画風の画像

パンを焼くとき、誰もが「焼き加減」という言葉を使う。
だが、この言葉をきちんと説明できる人はあまりいない。
強火なのか中火なのか、何分なのか。
温度を測る人もいるけれど、最終的には「見た目」と「匂い」に頼る。
つまり、**焼き加減とは理屈ではなく“気分の観測値”**だ。


オーブンの前でパンを見つめる時間は、だいたい哲学に似ている
少し早い気もするし、まだ足りない気もする。
どちらの仮説も正しいし、どちらも間違っている。
パンは沈黙しているが、見ているこちらの心が落ち着かない。
この曖昧なやり取りの中で、人間は“判断”という名の妄想を働かせる。


焼きすぎれば「香ばしい」と言い訳し、
焼き足りなければ「しっとりしている」と慰める。
パン屋は失敗の言語化がうまい。
失敗を修正する前に、まず“表現”として肯定する。
この姿勢こそ、曖昧さの中で生き延びる術かもしれない


「焼き加減」という言葉の中には、“加減”という不思議な単語が潜んでいる。
理科的に言えば、熱量のコントロールを指す。
けれど実際の現場では、
**「今日はこのくらいでいいか」**という人間的な投げやりの別名だ。

おそらくパンは、人間のこの“適当さ”を好む。
完璧な焼き時間を設定しても、湿度が違えば全てがズレる。
科学がどれだけ進歩しても、「いい匂いがしたら焼けた」で終わる。
パン作りとはつまり、測定をあきらめた科学である。


それでも、人はパンを焼く。
曖昧な結果を、毎日確かめる。
「昨日より少し焦げたな」と思いながら、
「でも今日はこれでいい」とも思う。

焼き加減は、正解ではなくその日の気分の翻訳
パンはきっと、人間のあいまいさを笑っている。
オーブンの中で、まるで心の温度を測っているみたいに。

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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