パンをじっくり味わうという教養|パン・テイスティング入門① | まつやまパン

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パンをじっくり味わうという教養|パン・テイスティング入門①

パンを「味わう」という行為について

ワインやコーヒー、日本酒には、テイスティングの方法論があります。
香りの取り方、口に含んだときの広がり、余韻の見方。
それらは、ある程度体系化され、「教養」としても扱われています。

一方で、パンはどうでしょうか。

毎日のように食べているのに、
どう味わえばいいのかを、きちんと言葉にされたことは少ない。
この違いは、パンが浅いからではありません。
むしろ逆で、体系化されてこなかっただけだと思っています。

パンの世界は、ワインやコーヒー、日本酒に匹敵するほど奥深い。
私はそう確信しています。

黒い服の男性が赤ワインを卓上に置いて同じテーブルの大きなハードパンを手で味わうように触っている。

パンを読むという感覚

パンを丁寧に味わうと、
作者の意図や、発酵の過程、
使われている小麦の品種や産地まで、自然と想像が広がります。

それは、
「おいしい」「好き」で終わる体験ではありません。

作品を前にして、
背景を読み取り、構造を感じ取る。
感覚としては、アートを鑑賞するときに近い。

パンは、読むことのできる食べ物です。
その入口になるのが、テイスティングという考え方です。

テイスティングは特別な行為ではない

ここで誤解してほしくないのは、
テイスティングは特別な人のための技術ではない、ということです。

パンを食べるとき、私たちは無意識のうちに、
見る
触れる
噛む
感じる
という段階を踏んでいます。

テイスティングとは、
その行為を少しだけ意識的に行うこと。

慣れれば、自然にできるようになります。
難しく考える必要はありません。

第一段階:外観を見る

まずは、見た目。

パンは、外観だけでも多くの情報を語ってくれます。

色を見れば、
しっかり焼き込まれているのか、
それとも、あえて浅く焼いているのかがわかります。

赤みがかっている場合は、
アミノ酸がよく引き出されている可能性が高い。

ふくらみ方も重要です。
ボリュームがあれば、軽く食べられる印象。
控えめであれば、噛み応えがあり、味が濃いことが想像できます。

第二段階:触感に触れる

次に、手で持ったときの感触。

ずっしりしているか、軽いか。
ここから、ふわふわなのか、ぎゅっと詰まっているのかが見えてきます。

思った以上に重い場合は、水分量が多いこともある。
それは、しっとりとした口溶けにつながります。

表面が
ざらざらしているのか、
つるっとしているのか。

ナイフを入れたときの手応えも、
クラストの厚みや歯切れを教えてくれます。

バゲットをナイフでカットしている画像

第三段階:内相を見る

パンを切った断面。
ここには、発酵の履歴が残っています。

気泡は、酵母が吐いた二酸化炭素の跡。
だから「気泡は発酵の履歴」とも言われます。

気泡は、ただの見た目ではありません。
唾液の通り道になります。

スポンジを想像するとわかりやすい。
気泡がうまく分布していると、
唾液を吸い込み、口溶けがよくなります。

バゲットの断面、気泡が均一に入っている。

重要なのは、
気泡が均等に散っていること。

下部に気泡の少ない層があると、
どうしても口溶けは悪くなります。

バゲットのように大きな気泡が散ったものは、
「蜂の巣状」と表現され、
火通りとおいしさの目安になります。

食パンのように小さな気泡でも、
数が多ければ、ソフトで口溶けのよいパンになります。

気泡膜の色にも注目してみてください。
白、グレー、黄色。
ここから小麦や副材料を想像することができます。

透明感があれば、水がよく回り、
甘みと口溶けにつながります。

縦長の気泡は、
オーブン内で水蒸気によって上に伸びた証拠。
これも、甘く、口溶けのよい要素です。

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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