パンは乾燥した瞬間に老化する|衛生と美味しさを守る“水分コントロール”の話

パンの敵は菌だけじゃない。乾燥も「劣化」
パンがパサパサになってしまうとき、私たちはつい「時間が経ったから仕方ない」と思ってしまいます。
しかしパン職人から見れば、それは“時間のせい”ではなく水分の逃げ方の問題です。
焼きたてパンの内部はおよそ35〜40%の水分を含み、香りや食感の基礎はその水分でできています。
つまり、パンの乾燥=味の崩壊。
どれだけ衛生的に扱っても、水分を守れなければ美味しさは長く続きません。
乾燥が進むメカニズム
パンが乾燥する原因は主に3つあります。
- 空気中の湿度差
パン表面と空気の湿度差が大きいほど、水分が急速に蒸発します。 - デンプンの老化(再結晶化)
パンの主成分であるデンプンは、冷めると再び結晶化して固くなります。 - 外気との接触面積
袋詰めをしていないパンは空気と触れる面積が大きく、乾燥と酸化が早く進みます。
この三重のプロセスが、パンの「焼きたて感」をどんどん奪っていくのです。
衛生と乾燥は表裏一体
「衛生管理」と「乾燥防止」は別の話のようで、実は同じ根っこを持っています。
パンを袋詰めすることは、ホコリや菌を防ぐだけでなく、
**水分の蒸発を抑える“美味しさの保存”**でもあります。
逆に、オープン陳列でパンが長時間空気に触れると、
衛生的にも乾燥的にも同時に悪化します。
清潔さと湿度を両立させることが、職人にとっての“焼きたての再現”の基本です。
パン職人が行う“水分の見張り”
工房では、パンが焼き上がったあとも湿度計と温度計を並べ、
冷却時の環境を細かく調整します。
高温のまま密閉すると水滴が付き、カビや変色の原因になる。
完全に冷めてからでは乾燥が進む。
その中間——触って少し温かいくらい——でラップまたは袋詰めするのが黄金タイミングです。
この一瞬の判断で、翌日のパンの香りや食感がまるで違う。
パン屋にとって乾燥対策は、衛生と同じくらい神経を使う工程なのです。
“乾燥させない冷凍”という新しい保存法
冷凍は敵ではなく、むしろ乾燥防止の味方。
パンを急速冷凍すると、水分が氷結し、香りや食感を閉じ込めることができます。
再加熱時にその水分が蒸気となって戻るため、
焼きたてに近い状態を再現できるのです。
まつやまパンでは、この原理を応用して“冷凍しても乾かないパン”を実現しています。
キューブパンの形状も、乾燥面積を最小限にするための構造設計。
見た目のかわいさの裏には、職人の計算があります。
まとめ|パンを守るのは「衛生」と「湿度」
パンの美味しさを長く保つためには、清潔な環境と、適切な水分のコントロールが欠かせません。
袋詰めは手間ではなく、パンを守る“ラストガード”。
焼きたてを長く届けるためには、乾燥を防ぐ工夫こそが本当の衛生管理です。
パンが乾かないように守るということは、パンの命を守るということ。
それが、パン職人の静かな使命です。

