パンの種類と名前で旅する世界|アメリカ編:大量生産とクラフトの再生 | まつやまパン

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パンの種類と名前で旅する世界|アメリカ編:大量生産とクラフトの再生

ニューヨークの街角のベーグルショップ。実際の場面を切り出したような写真

様々な国の文化が集まったミックスされた文化の国

移民からスタートした国つくりの中で
イタリア、フランスから様々な国の民族が集まって
それぞれを守りながらミックスされていったのがアメリカという国です

パンも主張と融合の歴史でした。

工業化が作ったパンの国

アメリカのパン文化は、まず「大量生産」から始まりました。
20世紀初頭、都市化と冷凍技術の発展により、
パンは「毎日焼くもの」から「いつでも買えるもの」へと変わります

その象徴がスライスブレッド(Sliced Bread)
1928年、アメリカで世界初のスライス機付き製パンラインが登場し、
「人生で最高の発明(the greatest thing since sliced bread)」と称されました。
手作業のパンが“個人の味”を表すものなら、
アメリカのパンは“社会の速度”を象徴する存在だったのです。


角食パン──アメリカの生活を支えた正方形

アメリカの朝食といえば、角食(Sandwich Bread)。
薄くスライスされ、トーストすれば軽く、サンドにすれば柔らかい。
その機能性は、合理性を愛するアメリカらしさの表れです。

保存性・均一性・軽さを追求した結果、
水分量が少なく、添加物で柔らかさを保つレシピが主流に。
その反面、「パンが工業製品になった」とも言われました。
それでもアメリカ人にとって角食パンは、
**“家庭の味”でありながら“社会の味”**でもあるのです。


ベーグル──街角から生まれたモチモチ文化

ニューヨークのベーグルは、ユダヤ系移民が持ち込んだ伝統の味。
生地を一度茹でてから焼くという独特の製法が、あのもちもちした食感を生みます。
硬水のニューヨークの水質がベーグルに最適だったことから、
“ベーグル=ニューヨークの象徴”として定着しました。

クラフト文化の再興とともに、
手作りベーグル専門店が再び増え、
チーズ・サーモン・ハニーなどのアレンジが進化。
ベーグルは今、**工業化の象徴だった都市に生まれた“手仕事の反逆”**になっています。


サワードウ──アメリカの再生パン

「サワードウ(Sourdough)」は、アメリカ西海岸・サンフランシスコの誇り。
天然酵母による酸味と香りが特徴の伝統パンです。
ゴールドラッシュ時代(19世紀)、保存性と発酵力の強さで人気を博し、
鉱夫たちは自分の酵母を“家族のように”育てていたといわれます。

現代では、クラフトブームの象徴として再評価され、
「発酵を育てる文化=スローフードの象徴」へ。
一度“効率化”に奪われたパンの魂を、
再び“時間”で取り戻したのがアメリカのサワードウなのです。


アメリカのパンが語る“自由”

アメリカのパンには、「これが正解」という形がありません。
冷凍パンからファーマーズマーケットの自家製パンまで、
自由で、多様で、矛盾している。
けれどそれこそが、アメリカの精神そのものです。

パンを焼く理由も多様——
「早く食べたい」も、「自分で作りたい」も、どちらも正義。
効率と情熱のあいだにある“自由の味”が、アメリカのパンの本質です。


まとめ|パンが再び“人の手に戻る”時代

アメリカは、パンを機械に託した国であり、
そして今、再び手に取り戻そうとしている国でもあります。
効率からゆとりへ、大量から個へ。
ベーグルもサワードウも、その象徴。

パンが「焼く行為」から「考える行為」へ変わった現代、
アメリカはその転換を最初に体験した国。
だからこそ、ここには“未来のパン文化”のヒントが眠っています

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

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