コラム & INFO

ブログ

キューブパンという幾何学的な悩み 本当は面倒なキューブパン

キューブパンの型からパンがあふれてしまって慌てているパン屋さんの様子

パン屋をやっていると、よく言われる。
「キューブパンって、かわいいですよね」
たしかに見た目は整っている。
けれど、あの形はただの“かわいい”ではない。
数学的な執念の結果だ。


立方体という形は、シンプルに見えて実は残酷だ。
少しの歪みも、すぐにバレる。
角が丸くなれば「ふにゃ」として、
生地が足りなければ「しょぼん」と沈む。
ほんの数グラムの誤差が、すぐに形に出る。

まるで「完璧」という言葉を試してくるような生き物だ。


生地を詰めすぎてもいけない。
膨らみが上に逃げ、蓋を押し上げる。
少なすぎると、角が立たない。
ちょうど良い量はあるけれど、
それは天気、粉の吸水率、
そしてその日のパン職人の気分まで関係する
。

つまり、キューブパンを焼くというのは、
「同じことをして、同じ結果を出す」という幻想に挑む作業だ。
そして毎回、少しだけ違う立方体ができる。


完璧なキューブというのは、理論上の存在だ。
現実には、どんなに丁寧に焼いても、
角はほんの少しだけ呼吸している。
人間の手で焼いたパンが「立方体でいよう」とする努力の跡が、
その呼吸の中に見える。


あの形は、かわいいというより、ちょっと切ない。
完璧を目指すのに、完璧にはなれない。
けれど、だからこそ美しい。

毎回オーブンを開けるたび、思う。
今日のキューブは少し丸い。
でも、それでいい。
たぶん、人間もそんなふうに焼けている。

この記事の著者

原 新

和食料理人としてオランダをはじめヨーロッパ各地で料理修行。帰国後は様々な修業を重ねたのち、地元・福岡で郷土料理や大麦料理、スープ専門店など、幅広い食文化に携わってきました。
その後、「料理の延長としてのパンづくり」をテーマに独学でパンの世界へ。ベーカリー経験ゼロからYouTubeで1800時間以上学び、一辺6cmの四角い“キューブパン”という形にたどり着きました。
雑穀マイスターとして穀物や発酵の個性を生かしつつ、最近はAIも活用して新しいフレーバーや商品アイデアを探るなど、職人の感覚とデジタルの知恵を掛け合わせた開発にも取り組んでいます。
「まつやまパン」では、“会話のきっかけになるパン”をテーマに、ちょっと楽しく、ちょっと深いパンづくりを続けています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

関連記事

〒814-0131 
福岡県福岡市城南区松山2-16-3-103
電話番号 / 092-600-2980

 

営業時間 / 7時30分~16時
定休日 / 月曜、火曜
【月曜日が祝祭日の場合はopen】

 

プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記 / 利用規約

Copyright © 2025 原 新 All Rights Reserved.

CLOSE